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/ Mac ON! 1998 May / MACON-1998-05.iso.7z / MACON-1998-05.iso / Mac ON! GALLERY / 作品 / 岡山県 藤井健喜 / Weekend Hero 2 for R'S GALLERY / WH210 < prev    next >
Text File  |  1998-03-27  |  35KB  |  610 lines

  1. 第一〇話
  2. ウイークエンド・ヒーロー レスキューマニュアル
  3.         Introductry Remarks
  4.  田辺奈美と吉野冴子は平凡な高校生である。
  5.  あるとき、田辺浩一の開発した『ヒーロー変身薬』を飲んでしまった二人は、ビキニスタイルの恥ずかしい格好のヒーローとなって、世界征服を企む悪の秘密組織『ダークブリザード』と戦うことになる。
  6.  人は彼女たちのことを『ウイークエンド・ヒーローズ』と呼ぶ。
  7.  今日、彼女たちを待ち受けているものは一体何なのか…?
  8.                 1
  9.  日曜日。奈美と孝夫が仲直りした翌日。
  10.  人気のない空き地に、二人の女の子が立っていた。以前ヒーローたちが対決した場所だ。立っていた二人とも、なぜかビキニ姿であった。
  11.  エクセレントガールとパーフェクトガールである。
  12.  沈黙が続いていた。
  13. 「こんなところに、私ひとりを呼び出して、どういうつもり?」その沈黙を破ったのはエクセレントガールだった。目の前の女の子を見る。パーフェクトガールだ。
  14. 「…」黙ったままのパーフェクトガール。
  15. 「これで私を袋叩きにしようとでもいうの?」とエクセレントガール。
  16.  すると、パーフェクトガールが口を開いた。「まさか。あなたはそんなことで負ける子じゃないわ」
  17.  彼女の意外な台詞にエクセレントガールは驚いた。「よくわかってるじゃない」
  18. 「あなたはすばらしい戦士よ。それは認めるわ」
  19. 「え?」
  20. 「だから、今日、呼んだのよ。あなただけ」
  21. 「私だけ…?」
  22. 「ねえ。エクセレントガール」ワンピースの女の子がいう。「私たちと手を組まない?」
  23. 「え…!」
  24. 「私たちとあなたが組めば、この地上で最強のトリオが誕生するわ。そうすれば、何もかも思いのままよ」
  25. 「冗談!」瞠若するエクセレントガール。
  26. 「冗談じゃないわ。あなただって、あんなハイパーガールみたいなひよわな女の子の太鼓持ちなんて、いやじゃなくって?」
  27. 「ハイパーガールは大切なパートナーよ!」
  28. 「私たちの仲間になれば、あなたの身分は保証してあげるわ」黒い水着の女の子は静かにほほえむ。
  29. 「お断りよ」ワインレッドのビキニを着た女の子は、いった。
  30. 「私と一緒にハイパーガールと戦いましょう」
  31. 「いやよ!」
  32. 「そう。どうしてもいやだというのね?」
  33. 「そうよ」
  34.  険悪な雰囲気になった。エクセレントガールは身構える。腰を引く。短い髪を掻き上げ、息を整える。
  35.  すると、相手は小声でいった。「馬鹿な子ね」
  36. 「何ですって!」
  37. 「私たちの仲間になる方が得だと、わざわざ教えてあげたというのに…」
  38. 「用っていうのはそのことだったの!」
  39. 「そうよ」
  40. 「さようなら!」
  41.  エクセレントガールは飛び去った。
  42. 「…」
  43.  美紀のそばに設置されている市の掲示板。それにはポスターが貼ってあった。『市長深沢公平、がんばります! —東児島市』という文字が見えた。
  44.  場所は移ってダークブリザードの本部。実は市役所の地下。
  45.  戻ってきたパーフェクトガールにアブソリュートガールが訊いた。
  46. 「で、説得は成功したの?」
  47.  彼女は首を横に振った。
  48.  アブソリュートガールは溜息をついた。「ウイークエンド・ヒーローズでやっかいなのは、あのエクセレントガールだけなのに」
  49. 「それはわかってるわ」
  50. 「あの女さえこっちのいいなりになれば…」
  51. 「…」
  52.                 2
  53.  その日の夜。
  54.  ダークブリザード本部。いつも会議をしている部屋。テーブルについているのはこの二人だった。
  55. 「何? ウイークエンド・ヒーローズのひとりを操る、とな?」
  56.  ブリザードが大声を上げた。
  57. 「その通りでございます。さすれば、彼女たちのパートナーシップにひびが入ることは必至。1号ハイパーガールと、2号エクセレントガールの二人を敵対させることも可能かと思います」
  58.  といったのはドクターダイモンであった。
  59. 「そこを、我々が叩くのだな」
  60. 「さすがは閣下」持ち上げるドクターダイモン。
  61. 「クッ、お主もワルよのう」
  62. 「閣下ほどではございませぬ」
  63. 「よし、さっそくその計画を実施するのだ!」
  64. 「ははーっ!」ドクターダイモンはうなずいた。
  65.                 3
  66.  エクセレントガールの写真集が発売中だった。それが発売後一週間で一二〇万部を売るミリオンセラーとなっていた。タイトルは『Second Weekend Hero』。
  67.  火曜日。前日は勤労感謝の日で休みだった。
  68.  冴子はこの写真集をこっそり持ってきていた。奈美に見せる。
  69. 「いつのまにこんなものを撮影したのよ?」いぶかしく思う奈美だった。彼女もこれがすでに書店とかで並んでいるのを見かけていた。「今週のベストセラー」などと書かれた札とともに。
  70.  先の奈美の問いに対し、冴子はただ笑っているだけだった。
  71. 「しかも、すごい写真もあるのよ」と冴子。
  72. 「何よ、すごい写真って?」奈美が訊く。
  73.  すると冴子は少しもったいをつけてから、彼女に耳打ちする。「私のヘアヌード」
  74. 「ちょ、ちょっと…!」焦った口調で奈美がいう。「そんな写真なんかとって、正体がバレるじゃないの!」
  75. 「大丈夫よ。ちゃんとエクセレントガールの身につけているのと同じ小道具を捜してきたから」
  76.  奈美は渡された写真集をめくってみる。元々スタイルのいい女なので、妙に色っぽかった。そして最後のページがヌード写真だった。そこにはゴーグルのみをつけて、あとは何も身につけていない冴子の姿があった。肌にはうっすらと水着の跡が残っていた。
  77.  奈美は真っ赤になった。
  78. 「ね、結構エッチな写真でしょう?」冴子がいう。
  79.  相当エッチだと思う奈美だった。
  80. 「撮影のとき、すごく緊張したのよ」冴子は思い出すように感想を話す。「でも、きれいな写真だと思わない?」
  81. 「…」自画自賛されても返答に困る奈美であった。
  82. 「それに、こんなことができる年齢って、もう今しかないと思ったから—」と冴子。ちょっとはにかむ。
  83.  そろそろ人が増えてきたので、冴子は本を鞄の中に隠した。
  84.  そのあと。すぐにペンダントを使い、奈美は兄にこういうのだった。
  85. 「お兄ちゃん、私も写真集出したい」
  86. 「…へ?」
  87.  いまいちその意味を解せない浩一は、そう答えていた。
  88. 「私もヘアヌード撮りたい」しょうもないことでライバル心を見せる奈美である。
  89.  これに対する兄の答えは、身も蓋もないものだった。
  90. 「おまえは駄目だ」
  91. 「どうして?」
  92. 「そんなことしたって、色気ねーもん」
  93. 「…」
  94.                 4
  95.  東児島第二高校。
  96.  ドクターダイモンはヒーローのうちの一人を操れるようにするコントローラーと、コントローラから発信されるレーザーを受信する機器を開発し、これを由衣に渡していた。相手の脳波を操るレーザーを流すのである。
  97.  休み時間でのことだ。
  98.  2年B組の教室。
  99.  小柄な生徒が叫んだ。「あっ、ダークブリザード・ヒーローズだ!」
  100. 「え!」奈美はびっくりした。冴子とともに窓際へゆく。
  101.  学校内は騒々しくなった。窓際に生徒が集まってくる。
  102.  グラウンドに、黒いビキニの女の子がいた。胸部に薔薇の刺繍がある。束ねた後ろ髪がなびいている。
  103. 「ハイパーガールよ、今すぐ姿を見せろ! このアブソリュートガールが血祭りにあげてやるわ!」彼女がいった。
  104.  明らかに挑発していた。
  105. 「おまえみたいな貧弱なヒーローなんて、かつて見たこともないわ!」
  106. 「く、くそお…!」歯ぎしりする奈美。
  107. 「駄目よ、奈美。あんな挑発に乗っちゃ…!」冴子がなだめる。
  108. 「おまえなんか、お尻ペンペン!」とアブソリュートガール。尻を突き出して手で叩くしぐさをしている。
  109.  レベルの低い挑発だった。
  110. 「あ、あんなこといってる〜!」それに腹を立てる奈美であった。
  111. 「駄目よ、動じちゃ」冴子は内心、頭が痛かった。
  112.  深沢美紀は黙って遠くから妹を見つめていた。
  113. 〈相変わらず品というものがないわね。あの子は…〉そう思いつつ。
  114.  どうでもいいが、学校関係者は、こういう事態を止めようとはしないのだろうか?
  115. 「でも、悔しいよお…!」奈美がいう。いじいじしている。
  116. 「駄目よ」冴子が止める。
  117. 「私、行って来る!」奈美は教室を出ていった。
  118. 「奈美!」冴子の止める声を無視して。
  119.  奈美はトイレで変身。グラウンドに登場した。
  120.  教室で別の男子生徒が叫んだ。「ハイパーガールだ!」
  121.  群がる観衆。教室内から歓声があがった。
  122.  グラウンド上で対峙する二人のヒーロー。
  123. 「ふっ、現れたわね…」アブソリュートガールがいった。
  124. 「私は、貧弱じゃないもん…!」真っ赤な顔をしてハイパーガールがいう。
  125. 「じゃあ、私を倒してごらんなさい…!」
  126. 「うるさい!」
  127.  ハイパーガールは武器を持ってアブソリュートガールに殴りかかった—
  128.  校舎の窓から不安そうに彼女を見つめる冴子。
  129.  由衣は奈美のパンチを軽くかわす。そしていう。「あなたが負けたら、ここで正体を明かしてもらうわ…!」
  130. 「え、えーっ!」
  131. 「覚悟!」アブソリュートガールは俊敏な動作でハイパーガールの頭を股に挿み、地上にたたきつけた。
  132. 〈あ…!〉冴子は目を見開く。
  133.  それはエクセレント・クラッシャーそのものだった。
  134.  ハイパーガールは叫び声をあげ、その場に倒れ込んでしまった。
  135.  周囲から悲鳴にも似た声が漏れる。
  136. 「弱すぎるわ」アブソリュートガールはハイパーガールを仰向けにしてその体を締め付けながら、彼女の腹にヌンチャクを打ち込んでいた。
  137. 「ああっ!」痛みをこらえる奈美。
  138.  敵の攻撃は容赦がなかった。「さあ、早く正体を明かしなさいよ!」
  139. 「い、嫌…!」
  140. 「おまえの正体を、ここで見ている奴らに教えるのよ…!」ヌンチャクを振る。
  141. 「い、いやあ…!」
  142. 「な、奈美…!」
  143.  奈美より感情が高ぶってしまった冴子は、教室を抜け、人のいない場所を選んだ。そして自分も変身。奈美を助けに運動場へ現れた。「やめなさい!」
  144. 「おやおや、仲間の登場か…」振り向く黒ビキニの女。
  145. 「今度は私が相手よ!」エクセレントリングを構える。
  146. 「ふっ」アブソリュートガールは鼻で笑い、「あなたみたいな『脱ぐヒーロー』なんて相手にしたくないわ」アブソリュートガールが軽蔑するようにいう。「恥を知りなさい!」
  147.  これには冴子も頭に来た。「なにっ!」彼女の感情は高ぶる一方だった。
  148.  アブソリュートガールはそんな彼女の一瞬の不意をつき、近寄る。そして彼女の耳の後ろに受信器をとりつけた。まんまと成功した。
  149.  アブソリュートガールは飛び去っていった。
  150.  おやっ、と思う冴子だった。何が起こったのかわからなかった。
  151.  それでも彼女はハイパーガールを抱えて安全な場所に避難した。学校の裏山だった。誰もいない場所でハイパーガールをおろす。
  152. 「ハイパーガール」彼女はハイパーガールの体を揺すって起こした。「しっかりして」
  153.  ハイパーガールの瞼があがった。「…エクセレントガール」
  154. 「大丈夫…?」
  155. 「…ええ」
  156. 「…」
  157. 「また、負けちゃった…」悔しそうに奈美がつぶやく。
  158. 「…」彼女は言葉が出なくなった。
  159.  その冴子の首筋には、小さな受信装置が張り付いていた。それが日の光に反応し一瞬きらめくのだった。
  160.  秋の日の午後である。
  161.                 5
  162.  その日の放課後。
  163.  自宅にいた奈美のイヤホンにこんな声がした。「奈美、ダークブリザード・ヒーローズが現れたわ」冴子の声だった。「また何か企んでいるみたいよ」
  164. 「えっ!」驚く奈美。
  165. 「場所は—」
  166. 「わかった」
  167.  奈美は変身して飛んでいった。
  168.  そこは二高の裏山の上空であった。
  169. 「ダークブリザード!」ハイパーガールがいった。
  170.  その声に気づいたのか、アブソリュートガールが顔を向けた。「来たわね、ウイークエンド・ヒーローズ」
  171. 「また何か悪いことを企んでいるのね!」エメラルド・グリーンのビキニを着た女の子がいう。
  172. 「さあ、どうかしら?」しらを切る美紀。
  173. 「許さないわよ!」エクセレントガールがいう。
  174. 「ふん、今日があなたたちの最期—とくに、ハイパーガールはね」美紀がいう。
  175. 「え?」不思議に思う奈美。
  176. 「さあ、エクセレントガール、ハイパーガールをやっておしまい!」パーフェクトガールがいった。
  177. 「え?」冴子は首をひねる。
  178.  美紀は手の中に納めてあった小型コントローラのスウィッチを入れた。ボールペンを少し短くしたようなものだ。先端にマイクロホンを搭載している。これでじかに命令を与えることもできるのだ。
  179.  美紀がいう。「ハイパーガールを倒すのよ、エクセレントガール!」
  180.  その直後、冴子は無表情でうなずいた。「わかりました」
  181. 「ど、どうしたのよ? エクセレント—」
  182.  不意にエクセレントガールが奈美に襲いかかった。
  183. 「ちょ、ちょっと…!」何が何だかわからない。わからないうちに奈美は殴られた。「うぐっ!」
  184.  間髪入れず、冴子は奈美の体を抱え、そのまま締め付けてゆく。
  185. 「う、うわああああ!」奈美の悲鳴。
  186. 「エクセレントガールよ」美紀がいう。「そのままハイパーガールの背骨を折ってしまいなさい!」
  187. 「はい」冴子はうなずく。「パーフェクトガール」
  188. 「エ、エクセレントガール…!」奈美は愕然とした。
  189.  エクセレントガールはさらに締め付ける力を強めた。
  190. 「あ、ああ…!」奈美はうめくような声を漏らす。
  191. 〈こ、殺されちゃうよ…!〉そう思うが抵抗手段が見つからない。
  192.  冴子は締め付けを強める。
  193. 「た、助けて…!」
  194.  奈美は空中で気を失った。
  195. 「くっ、しようもない…」エクセレントガールは彼女を手放した。
  196.  奈美は地上へ落ちていった。
  197.  エクセレントガールは飛び去っていった。
  198.  冴子は人気のない学校の裏山で変身を解除した。すると急に頭を左右に振った。
  199.  辺りを見回して思う。おや? と。
  200. 「あ、あれ…私ってば、何でこんなところに?」意外に思いつつも、冴子は自宅に向けて帰り出した。
  201.  少しばかり歩いて行くと、冴子は草むらの上に倒れている学生服姿の女性を発見した。
  202.  奈美だった。
  203.  冴子は急いで彼女に近寄り、体を揺すった。
  204. 「奈美、奈美ったら…!」冴子は奈美を抱くようにしていう。「しっかりして!」
  205. 「…さ、冴子?」
  206. 「どうしたのよ? いったい」
  207. 「え…?」
  208.  奈美は戸惑った。今さっき戦ったというのに。彼女はそれを覚えてないというのか?
  209. 「私は今さっきまで、あなたと戦ってたのよ」戦っていたというよりは、一方的にやられていたような気がするが…
  210. 「え…!」
  211. 「冴子、今まで自分がどうしたか、覚えてないの?」
  212. 「変身したっていうのは、覚えてるんだけど、そのあとのことは、さっぱり…」
  213. 「…」
  214. 「で、奈美は、どうしたの?」
  215. 「だから、冴子と戦ってたのよ!」奈美はいう。「私に鯖折りをして絞め殺そうと—」
  216. 「そ、そんな、馬鹿な…!」
  217. 「だから本当なんだって!」
  218. 「そんな…」
  219.  結局同じところで話題が繰り返されている。
  220.  話がかみ合わない二人だった。
  221. 「とにかく、帰らなくちゃ」奈美はそういいながら立ち上がった。まだ痛みは残っていたが、歩行は可能だった。
  222.  奈美は何か裏があるなと感じた。
  223. 「じゃあ、さようなら」そのまま奈美は冴子と別れた。
  224.  不思議そうに首を傾げる冴子だった。
  225.  夕日がきれいだった。
  226.  自宅近くまで歩いてきた奈美。
  227.  そこで、今も自宅前をウロウロしている麻生ちづるを呼び止めた。東児島第一中学校のセーラー服を着ていた。学生鞄を提げている。
  228. 「麻生ちづるさんね」
  229. 「あ、先輩!」ちづるがいう。
  230. 「あなた、今から私のやることを、秘密にしておくことができる?」
  231. 「え?」
  232. 「とにかく、秘密を守るという自信がある?」
  233. 「ええ。そういう自信はあります」彼女はいった。
  234. 「本当に?」
  235. 「はい」ちづるはかぶりを振る。その反動で奈美の手が、ちづるの服の盛り上がっているところに当たった。適度な弾力がある。奈美はそこに驚きの視線を向ける。
  236. 「…お、大きいのね」
  237.  まじまじと見つめる奈美。それはちづるの胸であった。こういうことには奈美はなぜか神経質だった。
  238. 「ど、どうかしましたか?」
  239. 「これ、本物?」
  240. 「え?」ちづるは戸惑った。「そ、そうですけど…」
  241. 「いくつ?」
  242. 「え…えーと、九三センチです」ますます戸惑う。
  243. 「サイズは? Fカップ?」
  244. 「は、はい…」
  245. 「いいなあ…」奈美はちづるの胸をなで回していた。
  246.  近くを通ったOL風の女性が妙な顔でこちらを見ていた。
  247. 「ちょっと、先輩…」ちづるは恥ずかしくなった。
  248. 「あ、ごめん…!」あわてて手を引っ込める奈美。
  249.  二人ともなぜだか真っ赤になってしまった。
  250. 「でも、肩がこらない?」奈美が訊いた。
  251. 「え?」ちづるはどう答えていいのか迷った。
  252.  奈美はちづるを浩一の研究室に連れてきた。扉を開ける。「お兄ちゃん」
  253. 「どうした?」兄がパソコンデックに座ったまま彼女の方を見ていった。
  254.  妹はもうひとりの女の子を中に入れてから、部屋の戸を閉めた。
  255.  奈美とちづるは兄のいる前まで来た。
  256.  部屋の中は多少外より暑かった。まだ日が暮れてしまったわけではないのに、部屋の中は明々と照明がともっている。
  257.  ちづるはその部屋の奇妙さに驚いてしまった。いったい、この男はどんな人なのだろうか。
  258.  だが、先輩の兄というからには、悪い人ではなさそうだ。
  259. 「この子は私の友人で、麻生ちづるちゃん」奈美は横にいる中学生を指す。
  260. 「初めまして」ちづるが挨拶する。
  261.  浩一も挨拶をする。
  262. 「お兄ちゃん、頼みがあるの…」奈美がいう。「彼女をウイークエンド・ヒーロー3号にして欲しいの」
  263. 「え?」
  264.  浩一とちづるは時を同じくして同じ言葉を発した。
  265. 「先輩」ちづるはきょとんとしている。「それって、どういうことなんですか?」
  266. 「実は」奈美がちづるに向かっていう。「1号、ハイパーガールの正体は、私なの」
  267. 「え、えーっ!」
  268. 「2号は、私のクラスメート」奈美がいう。「吉野冴子さん」
  269. 「えーっ!」
  270. 「しかも、その変身薬をつくったのは、私のお兄ちゃんなの」
  271. 「えーっ!」彼女はもう叫ぶしかなかった。嘘みたいな話だ。彼女は若干頭の中が混乱していた。
  272. 「もし3号を登場させるとしたら、それにふさわしいのは、あなたしかいないわ」
  273. 「私、ヒーローになれるんですか!」ちづる未だ興奮冷めやらぬ口調で叫んだ。
  274. 「そうよ。ちづるちゃん」奈美はうなずいた。
  275.  ちづるはようやく冷静になってきた。
  276.  奈美は改めて兄を見てから、
  277. 「ねえ、お兄ちゃん、お願い!」頭を下げる。
  278. 「でも、急にそんなこといわれてもなあ…」浩一は頭をかいた。
  279. 「お願い。じゃないと、冴子を…エクセレントガールを助けることができないの」
  280. 「助ける?」首を傾げる兄。「何かあったのか?」
  281.  奈美は先ほどのことの経過を彼に話した。自分のおなかを見せる。あざだらけだった。
  282. 「こいつはひどいな」浩一はため息をつく。
  283. 「なんてひどい…」これにはちづるも目を覆う。
  284. 「正直、死ぬところだったわ」奈美がいった。「でも、冴子はそんなことをする子じゃないの。本当は優しい女の子なの」それから、「私は、冴子を信じてる…」
  285. 「奈美…」
  286. 「きっと、冴子はダークブリザードに操られてるだけなのよ」
  287. 「先輩…」
  288. 「あ、ダークブリザードっていうのは、今、私たちが戦っている相手よ。悪の秘密結社らしいの。覚えといてね」
  289. 「は、はい…」
  290. 「それで—」奈美は那覇市を、じゃない、話を戻した。「私は、なんとしてでも冴子を助けたいのよ」
  291.  若干の沈黙が流れた。
  292. 「そうか—」沈黙を破ったのは浩一だった。「奈美がそこまでいうのなら、仕方がないな」それでも未練がましくこういう。「せっかく、3号は僕がなろうと思ってたのに…」
  293. 「ご、ごめんなさい」ちづるがいった。
  294. 「君が謝るこたあないよ」浩一は奈美、そしてちづるを見る。「3号を許可しよう」
  295. 「本当!」うれしさのあまり、奈美は浩一に抱きついた。「ありがとう、お兄ちゃん!」
  296. 「おい、離れろ!」浩一は慌てた。奈美の腕がきつく彼の首に巻き付いているのだ。「苦しいじゃないか」
  297. 「あ、ごめんなさい」離れる奈美。
  298.  軽くせき込む浩一。
  299. 「先輩!」ちづるは奈美と握手した。
  300.  部屋の中は少し暑かった。
  301.  落ちつきを取り戻した浩一は、薬を冷蔵庫から取り出してきた。三角フラスコにライトブルーの液体が入っている。彼はフラスコをラック横の小さなテーブルの上に置いた。再び椅子に座る。「それでだ。この薬を飲むと、そのとき着ていた衣裳が変身時の衣裳になるんだけど—」彼がいう。
  302.  何がいい、と彼がいいかけたところに、間髪を入れずちづるがいった。「先輩みたいなビキニがいいです」
  303. 「へ…?」奈美は目が点になった。
  304. 「だから私、持ってきました」
  305.  ちづるは鞄から水着を直接取り出した。エメラルドグリーンの色をしたビキニだった。ストラップスレスブラ、それにハイレグカットのマイクロビキニパンティー。ハイパーガールが着ている奴とうりふたつだった。
  306. 「いつも持ち歩いてるんです」とちづる。
  307. 「用意いいのね…」奈美にはそうとしかいえない。よくもまあそんなものを見つけてきたなと内心思いつつも。
  308. 「これで、ハイパーガールのコスチュームプレイをしたこともあります」
  309. 「…」奈美は何もいえなくなった。それはさぞかし恥ずかしかったことだろう。
  310. 「でも、これちょっときついんですよね」ちづるがいった。「胸を締め付けるみたいで…」
  311. 「きつい?」そりゃ、その胸じゃきついだろうと思う奈美。
  312. 「だから、今年買った新しいものにします」そういってちづるはもうひとつの水着を取り出した。紐で結ぶタイプのビキニだった。色はオレンジ。ちょうど冴子が身につけているような水着であった。
  313.  奈美は瞠若した。
  314. 〈そんなの着るの…!〉
  315.  セクシー過ぎるぞ、おい、と思ったのである。
  316.  彼女の思いをよそに、ちづるは水着を持つと、
  317. 「着替えていいですか」
  318.  そういっているそばから服を脱ぎ始めた。
  319. 「え…!」奈美は焦った。
  320.  服のリボンが落ち、シャツが落ち、スカートが落ち、そしてブラジャーやパンティーが床に落ちてゆく。
  321.  浩一は即座に背を向けた。「あー、見てないよ。僕は」
  322.  ちづるはその場で裸になった。
  323. 「わ、わ、わ…!」奈美は慌てた。彼女はちづるのフルヌードを見てしまった。抜けるような白い肌、というおまけ付きだ。
  324.  彼女は両手で自分の目を覆った。だがもう遅いと思う。
  325.  最近、ひとの裸を見る機会が多い奈美だった。
  326.  ちづるの体を見て、内心悔しい奈美であった。
  327. 〈私だって、裸になれるもん…!〉奈美は思う。〈胸は小さいけど、大好きな人の前なら、どんなことだってできるもん…!〉ひとり興奮していた。〈いつか田村君と…!〉
  328.  いつか田村君と…?
  329. 「や、やだあ!」彼女は急に声を張り上げた。「私って、何てことを…!」恥ずかしくて顔から火を噴いている。何を想像したというのだ?
  330. 「どうかしましたか?」ちづるの声。
  331.  いつのまにか、ちづるは水着を着終わっていた。
  332.  奈美は我に返った。「い、いえ、何も…」
  333. 「着ました」改めてちづるがいった。
  334.  浩一は振り向いた。
  335.  目の前にはビキニ姿のちづるがいた。
  336. 「ご迷惑おかけしたみたいで、すみません」彼女がいう。
  337. 「いや、気にしてないよ」とかいっておきながら、実は慌てた浩一。
  338. 「私、昔から癖で、着替えはいったん素裸になってからやらないと、落ちつかないんです」ちづるがいう。
  339.  へえ、そんな人もいるのか、と思う浩一だった。
  340.  しかしこの姿だと、さして裸と大差がないというのも事実だった。
  341. 「これを飲むんですね」ちづるはそういうと、テーブルのフラスコを手に取る。それから一気に薬を飲んだ。「ごちそうさま」
  342.  薬を飲んでごちそうさまという人物も珍しい。
  343. 「さて、これでウイークエンド・ヒーローの3号が誕生したことになる」浩一が感慨深げに語った。「愛称は何がいいかな?」
  344. 「コンプリートガールっていうのは、どうですか?」
  345.  ちづるのそのひとことで、愛称はコンプリートガールと決まった。どこからそんな単語が出てきたのかは別として。
  346.  その後、変身の実験が行われた。
  347. 「Changing a CompleteGirl !」
  348.  ちづるが叫んで胸に手を当てると、彼女の周囲で光の帯が回った。通常奈美が変身時にどういっているのかを聞いて、彼女もそれを真似た。ところでダークブリザード・ヒーローズはどう変身しているのだろう? やはり「変身!」とだけいっているだろうか。
  349.  光が収まった。
  350.  ちづるは、黄色いビキニスタイルのコスチュームに身を包んでいた。
  351.  付属品として目を守るゴーグル、背中にたれているマント、膝までのブーツ等といったもので身を固めている。手には手袋をはめている。これらの衣類も黄色で統一されていた。奈美と同じだった。
  352.  頭にはヘアバンドをしている。
  353. 「うまくいったな」
  354.  変身の成功を確認した浩一は、京子に連絡を取った。
  355.  やがて京子がやってきた。彼女はちづると初対面の挨拶を交わして「またこれは見るも恥ずかしい格好を…」とかいう感想を漏らし、3号の武器を渡した。
  356. 「何ですか? これは」尋ねるちづる。
  357.  それは新体操で使うリボンであった。色は黄色だった。
  358. 「あなたの武器よ」京子が説明する。新たなヒーローが出てきたときにと、あらかじめ作っていたのだ。
  359. 「名付けてコンプリートリボンよ」中距離の敵を攻撃したり、敵をリボンで巻いて身動き出来なくするのだということだった。「実は、あなたの武器の候補は、これと、もう一つ大きなブーメランとがあるけど—」
  360. 「大きなブーメランですか?」
  361. 「ええ」うなずく京子。「名付けてコンプリートブーメラン」
  362. 「は、はあ…」
  363. 「どっちがいいかしら?」京子が訊いた。
  364. 「これでいいです」ちづるがいった。「リボンの方が、かわいらしいですから」
  365. 「じゃあ、これで決まりね」と京子。武器も決まった。
  366. 「それにしても、衣裳の色とベストマッチだな」浩一がいった。
  367. 「何いってるのよ」京子が淡々という。「あなたが、次のヒーローのコスチュームカラーは黄色だっていうから、それに合わせて作ったのに」
  368. 「ああ、そうだったっけ?」思い出して舌打ちする浩一。
  369. 「あらかじめ色は決まってるんですか?」未だ寒々しい姿でちづるが訊いた。
  370. 「まあ、そういうことだな」
  371.  浩一としては黄色は自分のラッキーカラーだと信じていたので、自分の変身するヒーロー用にこの色を準備していた。しかし、こうなるとラッキーカラーも変えなくてはならない。そう思った。変えてすむ問題だったのか、ラッキーカラーって…
  372. 「はじめが青。次が赤。三人目が黄色で、その次が緑…という予定では、いる」浩一がいった。
  373.  何だ、その色の並びは。奈美は言葉がなかった。
  374. 「まるでゴレンジャーみたいですね!」ちづるはなぜだかうれしそうだった。それにしてもよく知ってるな。
  375. 「三人いれば充分だと思うけど…」京子がぽつりといった。
  376.  それから武器が変身時に現れるように登録されたのち、京子よりちづるへ二つ三つ注意事項が言い渡された。
  377.  ちづるの顔には、あこがれのハイパーガールと同じヒーローになることができたといううれしさと誇りがあふれていた。彼女はビキニの上からセーラー服を羽織った。
  378.  説明が済むと、奈美とちづるは部屋を出た。
  379. 「え? 吉野さんが操られてるようだって、いったの?」京子が訊いた。
  380.  そのあとのことだ。
  381. 「そう」うなずく浩一。「奈美は確かにそういった」
  382. 「それは、ちょっと調べてみたほうが良さそうね」
  383.  扉を叩く音がした。
  384. 「どうぞ」浩一がいった。
  385.  入ってきたのは吉野冴子だった。顔が青い。
  386. 「どうしたの?」京子が訊いた。
  387. 「私、私…」冴子は急に泣き崩れた。
  388. 「どうしたのよ?」
  389. 「奈美が『冴子と戦った』とか『冴子が私を絞め殺そうとした』とかいったの。だけど、私にはそんな記憶などないの。何がどうなったのかわからないの」
  390. 「…」
  391.  京子は、冴子の周囲をぐるりと一周した。
  392. 「別に異常はないみたいね—」
  393.  と、冴子の首筋にきらりと光る物を見た。
  394. 〈おや?〉
  395.  京子は近寄ってみる。
  396.  よく見るとそれは、何かの装置みたいなものだった。文字が見えたので読んでみる。
  397. 「脳波をいじるレーザーの受信器。メイド・バイ・ダークブリザード」
  398. 「え?」驚く冴子。
  399. 「そのまんまだな」呆れる浩一。
  400. 「こんな物、取ってしまえ!」京子は受信器を取り外した。
  401.  彼女は受信器を二人にみせた。指の上に乗るほどの小さな直方体の装置だった。
  402. 「あなたが変身すると、動き出すようになってたんだわ、きっと」彼女は確信するようにいった。
  403. 「もしかして、これのせいで、私は奈美にひどいことを…!」冴子は自分のしたことに苦悩した。「私は本当に奈美を殺そうとしたんだわ…!」
  404. 「そんなことを気にしていても始まらないわ」
  405. 「ああ! 私は奈美になんといって謝ったらいいの!」
  406. 「吉野さん。しっかりして」と京子。「今、あなたが混乱したら、他の人まで混乱してしまう。そうなればウイークエンド・ヒーローズは空中分解してしまうわ…!」
  407. 「え…!」
  408. 「そんなことになったら、ダークブリザードの思うツボよ」
  409. 「…」
  410. 「自信を持って…」
  411. 「越智さん…」
  412. 「あなたの敵は、ハイパーガールじゃないわ」
  413. 「ダークブリザード、許せない!」
  414. 「やる気を取り戻してね」
  415. 「はい」
  416. 「京子さん、たまにはいいこというじゃないですか!」急に浩一が口を挟む。
  417. 「それは誉め言葉のつもりなの?」と京子。
  418. 「当然です」
  419. 「とりあえず、この受信器は研究材料ね」
  420.  京子は受信器の仕組みの解明に乗り出すことにした。
  421. 「ねえ、越智さん、奈美のお兄さん」不意に冴子がいった。
  422. 「なに?」答えたのは京子だった。
  423.  このとき冴子はあることを提案する。
  424. 「実は—」
  425.                 CM
  426.  ついに登場、ハイパーガール変身セット!
  427.  エメラルドグリーンのビキニとブーツ、マントなどヒーローの衣裳を忠実に再現。
  428.  これであなたもハイパーガールになれる!(映像はイメージです)
  429.  …ちょっと恥ずかしいけど。
  430.  エクセレントガール変身セット、コンプリートガール変身セットも近日登場予定!
  431.  価格はオープンプライスです。
  432.  お求めは、お近くの玩具店、有名デパート、スーパー、コンビニで。
  433.  注意:これを着て外には出ないでね。変な人だと思われて、警察に捕まっちゃうよ!
  434.                 6
  435.  翌日。水曜日。よく晴れていた。
  436.  その日の夕方のことである。
  437. 「臨時ニュースです! 東児島駅前商店街にダークブリザード・ヒーローズが出現しました!」
  438.  そんなニュースがちまたを駆けめぐった。
  439.  実際ダークブリザードの面々が暴れていた。冴子もエクセレントガールに変身したとたん、その破壊行動に仲間入りした。
  440.  ダークウォリアーズが、商店街で電柱を倒したり、店で強奪をするなどしていた。アーケードのない商店街だった。
  441.  その様子を見ているダークブリザード・ヒーローズ。
  442.  二人はビルの屋上にいた。周囲に張り巡らされた鉄格子に寄り掛かるように立ち、様子を見ている。対角線上には巨大な貯水タンクが設置されてある。高さが二メートル強あった。
  443.  ここは、真新しい雑居ビルだった。商店街の向かいにある。
  444. 「ほほほ、これは便利ね。あとはあの女の現れるのを待つだけ」そう笑ったのはパーフェクトガールだった。あの女とは、当然ハイパーガールのことである。
  445. 「そろそろ現れてもいい頃ね」妹がいった。
  446. 「おまちなさい!」女の子の声。
  447. 「来たわね…」美紀がつぶやく。
  448.  声だけが聞こえる。
  449. 「東児島の空のした、今日も誰かが呼んでいる」
  450.  由衣が不思議そうにいう。「おや? いつもの声じゃないわ—」
  451. 「悪い奴等を懲らしめる、正義の味方の女の子」これは、さっきとは別の子の声だった。ハイパーガールであることは彼女たちにもわかった。「その名も—」
  452.  貯水タンクの頂上に人影が現れた。夕日がちょうど逆光になっている。ともに前をマントで隠している。二人の女の子だった。
  453. 「ウイークエンド・ヒーロー1号!」ひとりがマントを翻す。ハイパーガールだ。
  454. 「同じく3号、コンプリートガール!」ハイパーガール同様、もうひとりがマントを翻した。
  455.  それは黄色いビキニを着た女の子だった。初登場なので愛称も語っている。ブラから中身が飛び出してしまいそうな胸だった。
  456. 「何っ!」美紀は焦った。
  457. 「二人あわせてウイークエンド・ヒーローズ」二人でいう。「只今見参!」
  458. 「さ、3号ですって!」アブソリュートガールがいう。
  459. 「か、かっこいいですね!」ちづるは興奮していた。
  460. 「興奮するのはまだ早いわよ」奈美がいさめる。「これからが重要なんだから」
  461. 「はい。がんばります!」
  462. 「その意気よ!」
  463.  急にアブソリュートガールが迫ってきた。コンプリートガールにだ。
  464. 「危ない!」奈美が割って入るより早く、相手はちづるの前で止まる。相手は「何よ、大きな胸なんかして!」と新人に罵声を浴びせた。
  465. 「え?」戸惑うちづる。
  466.  なにやら妙な雰囲気に、奈美は近寄りがたくなっていた。
  467. 「いくつよ?」
  468. 「きゅ、九三センチです—」
  469.  とたん、コンプリートガールの頬にアブソリュートガールの右手が飛んだ。短い音。
  470. 「私より大きいなんて…」黒いビキニの女は怒っている。
  471.  頬を押さえるちづる。
  472. 「許せない!」由衣はコンプリートガールの胸を鷲掴みにする。
  473. 「いや!」顔をゆがめるちづる。
  474. 「コンプリートガール!」ハイパーガールは叫んだ。叫ぶだけなのか?
  475.  ちづるは素早く、黒い手袋をした手を振り払う。そして彼女から離れた。
  476. 「逃げるのか!」
  477. 「当たり前ですよ!」ちづるがいう。「あんまり強くさわらないでください。痛いんですから」
  478.  奈美にはわからない感覚だった。
  479. 「みにくい女の争いね…」美紀はそうひとりごちていた。
  480.  いつのまにか、夕空に敵味方ときれいに分かれていた。
  481. 「いきなりなんて卑怯よ!」ハイパーガールがいう。
  482. 「くっ、やかましい!」美紀の隣に戻っていたアブソリュートガールがいう。
  483. 「許さないわよ!」とハイパーガール。
  484. 「何を偉そうに」パーフェクトガールがいつもながらの冷めた口調でいう。「…でもちょうどいいわ」彼女はエクセレントガールに連絡する。ビルの屋上に来いといったのだ。
  485.  赤いビキニの女の子がやってきた。正確にはワインレッドだけど。
  486. 「エクセレントガール…!」ハイパーガールがいう。いきなり彼女が来るとは予想しなかった。
  487. 「さあ、エクセレントガールよ。あの二人をやっておしまい!」パーフェクトガールが命令した。
  488.  エクセレントガールはハイパーガールたちに襲いかかってきた。
  489.  奈美は攻撃を回避する。彼女は飛び上がった。冴子もあとを追う。ちづるがさらにそのあとを追って飛び立つ。
  490.  彼女たちは空中で戦う。しかし奈美は本気で戦えない。
  491.  しかもこの三人の中で一番強いのはエクセレントガールだということは、奈美が一番よくわかっている。
  492.  空中で戦う三人。
  493. 「お願い! あなたは私たちの仲間なのよ!」ハイパーガールがいう。「私は、あなたとは戦えないわ…!」
  494.  だが、エクセレントガールはハイパーガールに殴りかかる。
  495. 「ハイパーガール!」3号が危険を察知して叫ぶ。
  496.  奈美は避ける。
  497.  エクセレントガールの腕は空を切った。
  498.  間一髪だった。
  499. 「あなたは敵に利用されているだけなのよ!」ハイパーガールは必死に説得する。
  500. 「うるさいわね!」エクセレントガールに効果はない様子だった。
  501. 「ねえ、気づいて!」ハイパーガールの目からは、光るものが落ちていった。
  502.  その頃。
  503. 「なあ、何か上の方がやかましいけど、どうしたんだ?」ビルの住んでいる男がいった。
  504. 「さあ?」同じ部屋にいた男が答えた。「近くで工事でも始めたんじゃないのか」
  505.  ニュースを聞いていないらしかった。
  506.  再び空中。
  507.  二人のヒーローは接近して戦おうとする。
  508.  そのときエクセレントガールはハイパーガールに向かってウインクする。
  509.  ハイパーガールは「おや?」と思う。
  510.  エクセレントガールはそっと接近してささやいた。「心配しないで」
  511. 「わかったわ」目でうなずくハイパーガール。彼女はいったん距離をおく。そして3号に耳打ちする。3号は了解した。
  512.  ハイパーガールたちは再び接近してゆく。
  513. 「死ね…!」これに対してエクセレントガールは、武器を投げた。それはハイパーガールを狙っていた。
  514. 「危ない!」
  515.  コンプリートガールがハイパーガールを助けようとした。リングはコンプリートガールに命中した。
  516. 「うわあっ!」3号は悲鳴をあげて、空から落下し始めた。
  517. 「コンプリートガール!」叫ぶ1号。
  518.  3号はビル屋上の地面に落ちて倒れた。
  519. 「よ、よくも…!」ハイパーガールは怒りをあらわにする。
  520. 「あんたも道連れよ!」エクセレントガールは武器を投げた。
  521.  再びリングが飛んできた。今回はハイパーガールに直撃する。
  522. 「きゃあああああ!」落ちてゆくハイパーガール。
  523.  ドサッという鈍い音がした。
  524.  ハイパーガールもエクセレントガールに倒された。ビルのコンクリートの地面に落ちる。倒れたままだった。
  525.  エクセレントガールはやられた二人のそばに降り立った。
  526.  それを見てパーフェクトガールがいった。「よくやったわ、エクセレントガール」
  527. 「あなた以外は弱いのね、あのメンバーは」アブソリュートガールがつけ加える。
  528.  するとエクセレントガールは笑った。「まさか! あんたらはさらに弱いわ!」
  529.  パーフェクトガールの顔がひきつった。「な、何ですって…!」
  530.  こん棒が飛んできた。パーフェクトガールを狙っていた。
  531. 「うわっ!」驚くパーフェクトガール。みると、ハイパーガールたちが起きあがっていた。
  532.  アブソリュートガールは怒鳴った。「くそっ、謀ったわね!」
  533. 「謀ったのはあんたたちの方じゃないの!」
  534.  エクセレントガールが叫んだ。怒っている感じだった。
  535.  彼女は目が潤んでいた。「私は、もう少しで、大の親友を—!」目から涙がこぼれた。「大の親友を殺してしまうところだったのよ…!」
  536. 「それが私たちの目的だったのよ」パーフェクトガールが淡々と語る。
  537. 「何っ!」冴子は叫んだ。こぼれた涙が彼女の胸に落ちる。涙は彼女のおなかに筋を残しながら流れ落ちてゆく。「今の台詞、もう一度いってみなさいよ…!」
  538. 「ええ、何度でもいってあげるわ」完全少女がいう。「あなたにハイパーガールを殺害させるのが狙いだったのよ」
  539. 「お、おのれえ…!」冴子は叫んだ。泣きながら。
  540. 「何とでも思うがいいわ」とパーフェクトガール。「あなたがたの友情にひびが入ると、私たちにはプラスになるのだから」
  541.  以前京子がいった言葉と同じだった。
  542. 「人の友情をもてあそぶなんて、卑劣すぎるわ!」冴子は本気で怒っていた。
  543.  奈美がこんな冴子を見たのは初めてのことだった。それにこんなに泣いている彼女を見るのも。
  544. 「あんたたちなんて、人間じゃないわ!」冴子がいう。
  545. 「ふん!」絶対少女が鼻を鳴らす。「涙や鼻水を垂らしたみっともないエクセレントガールよ。あんたなんかに、もはや用はないわ!」
  546. 「それはこっちの台詞よ…!」そういいながら鼻をすする冴子だった。
  547. 「どうやら、この計画は失敗に終わったみたいね」アブソリュートガールが静かにつぶやく。戦う気はないらしかった。
  548. 「ひとまず退却よ」パーフェクトガールがいう。
  549.  美紀たちは、受信器を遠隔操作でショートさせ、退散した。
  550. 「待ちなさいよ!」冴子が叫んだ。
  551.  ダークブリザード・ヒーローズの姿はもはやなかった。
  552.  突如、黒ずくめの集団が現れて、三人の周囲を取り囲んだ。「ブラボー!」
  553. 「ダークウォリアーズ!」ハイパーガールがいう。別称ブラボー隊。
  554.  すでに彼らはいなくなっていたものとばかり思っていた三人は驚倒した。実は待機していたというわけか—
  555.  ダークウォリアーズは一斉に三人に襲いかかってきた。「ブラボー!」
  556.  三人はいとも簡単に彼らを倒した。
  557.  ブラボー隊の面々はバタバタと倒れた。そして、次々と消滅してしまった。
  558. 「消えた…!」ハイパーガールはびっくりした。
  559. 「どうやら、やられると自動的に消えてしまうように出来ているのでしょう」コンプリートガールがいった。
  560.  そうではない。実はダークブリザードの連中は、自らがやられてしまうと自動的に本部に転送されるようになっているのだ。むろん、この三人がそんなことを知るはずもないが。
  561.  あとにはウイークエンド・ヒーローズだけが残された。
  562.  夕日の当たる屋上にエクセレントガールは立っていた。悔しいのか、肩をふるわせている。
  563.  ハイパーガールたちが後方から近寄ってきた。
  564. 「冴子…」ハイパーガールがいう。肩に手を当てる。
  565. 「ごめん、奈美…」エクセレントガールがいう。涙声。「ごめんね、奈美…!」顔をこちらに向けようとはしない。奈美の顔を見ることが出来ないのだ。うつむいたままの冴子。
  566.  奈美がこんな冴子の姿を見るのも、初めてだった。
  567. 「謝る必要なんてないわ」ハイパーガールがいった。「悪いのは冴子じゃないんだもの」
  568. 「奈美…!」冴子は振り向いた。ビキニ姿で。
  569.  奈美はにっこりとほほえむ。
  570. 「あ、ありがとう…」冴子が小さな声でいった。
  571. 「これからも、私たち三人、力合わせてダークブリザードと戦っていきましょう!」奈美はそういうと冴子の手を力強く握りしめた。
  572. 「がんばりましょう!」その二人の手の上にコンプリートガールの手が重なった。
  573. 「みんな…!」冴子の顔にようやくほほえみが戻ってきた。
  574. 「とにかく、無事でよかったですね!」ちづるがいう。
  575. 「で、あんた、誰?」冴子が黄色いビキニの方に向く。
  576. 「あ、申し遅れました。私、麻生ちづるといいます」ちづるがいった。「このたび、ウイークエンド・ヒーロー3号、コンプリートガールとして、みなさんとともに戦うことになりました」深々とおじぎをする。「よろしくお願いします」
  577. 「へえ」冴子は彼女を見る。「あなたが、ちづるちゃん?」
  578. 「はい、そうです。吉野先輩!」かぶりを振るちづる。このとき胸が軽く弾んだ。
  579. 「先輩だなんて、照れるわ…」とかいいながらまんざらでもなさそうな冴子だった。
  580.  こうして、ダークブリザードの作戦は、固い友情で結ばれた彼女たちの前に、失敗に終わった。
  581.  だが、自分たちを倒すためなら、その精神部分にまで危害を及ぼそうと企む彼らのやり口に憤りすら覚える、奈美たちであった。
  582.  秋の夕暮れのことである。
  583.  同じ頃、越智京子は残念がっていた。
  584. 「あ〜あ、これじゃあ、もう何の役にも立たないじゃない」
  585.  彼女の目の前には、ショートして煙の上がってしまった受信器があった。
  586.                 7
  587.  再びダークブリザード本部。
  588. 「計画は失敗したそうだな」ブリザードがつぶやいた。
  589. 「申し訳ありません」そう答えるのはドクターダイモンしかいなかった。
  590. 「もうよい」ブリザードが制する。
  591. 「はっ」ダイモンはかしこまった。
  592. 「ところでドクターダイモン」といってブリザードは話題を変えてきた。「最終兵器の開発はまだ終わらぬか?」
  593. 「はっ、現在詰めの作業に入っております」答えるダイモン。
  594. 「早く完成させろ」
  595. 「はい」
  596. 「これでにっくきウイークエンド・ヒーローズもおしまいだ! はっはっは!」
  597.  ブリザードの高笑いが室内にとどろいた。
  598.                 次回予告
  599.  康行「みなさん、覚えてますか? 東児島署の高木康行です」
  600.  敦「同じく今中敦です」
  601.  康行「最近出番が少なくて困っていたところでしたが、こういった形でみなさんと再会できるとは、うれしい限りです」
  602.  敦「さて、感動の再会をしたところで、予告です—ウイークエンド・ヒーローズに忍び寄る魔の手! 次回ウイークエンド・ヒーロー2、第一一話(だいじゅういちわ)『新たなる敵完全マニュアル』正義は週末にやってくる—」
  603.  康行「なんか説明になってないぞ」
  604.  敦「え? そうですか」
  605.  康行「まあいい。それじゃ、次回!」
  606.  俊雄「…よっぽど暇なんだろうなあ、あの二人」
  607.  浩一「それはいわない約束…」
  608.  
  609.  1997 TAKEYOSHI FUJII
  610.